この記事が役に立つ人
- 音声認識(STT)や音声合成(TTS)を Web アプリやモバイルアプリに組み込みたい
- 日本語の音声処理品質を重視している
- リアルタイムストリーミングでの遅延を気にしている
掲載内容は 2026 年 4 月時点 の公式情報に基づきます。音声 AI は進化が速い分野であり、モデルのバージョンアップで精度が大きく変わることがあります。料金は構造と桁感のみ記載し、正確な数値は各社公式サイトで確認してください。
結論を先に
音声認識(Speech-to-Text)と音声合成(Text-to-Speech)は技術的に独立しており、別のサービスを組み合わせて使うのが一般的です。「STT は Deepgram、TTS は ElevenLabs」のように、用途ごとに最適なサービスを選んでください。
対象 4 サービスの位置づけ
Deepgram(STT 特化)
独自の音声認識モデルを開発する STT 専業の API プロバイダ。エンタープライズ向けのリアルタイム書き起こし・コールセンター分析で実績がある。WebSocket 接続によるストリーミング STT のレイテンシの低さが特徴。
OpenAI Whisper API(STT)
OpenAI が公開した Whisper モデルの API 版。多言語対応の精度が高く、日本語を含む 100 言語以上を認識できる。API は音声ファイルを POST するだけのシンプルな設計。
ElevenLabs(TTS が本業。STT も提供)
音声合成で知られる API。音声クローン(既存の音声からプロファイルを作成)と、感情やトーンの調整が可能。ポッドキャスト・オーディオブック・ゲームの音声生成で採用されている。
Google Cloud Speech(STT + TTS)
Google Cloud の音声関連 API 群。Speech-to-Text V2 と Text-to-Speech の両方を提供し、GCP エコシステム内で完結できる。医療やコールセンター向けのカスタムモデルトレーニング機能もある。
音声認識(STT)の比較
| 項目 | Deepgram | OpenAI Whisper API | Google Cloud STT |
|---|---|---|---|
| 接続方式 | REST + WebSocket | REST のみ | REST + gRPC ストリーミング |
| リアルタイムストリーミング | 対応(低レイテンシ) | 非対応(バッチのみ) | 対応 |
| 日本語認識精度 | 中〜高(モデル依存) | 高 | 高 |
| カスタムモデル | 対応(エンタープライズ) | 非対応 | 対応 |
| 話者分離 | 対応 | 非対応(API 版) | 対応 |
| 句読点自動挿入 | 対応 | 対応 | 対応 |
OpenAI の Whisper API は音声ファイルを一括送信するバッチ処理のみで、リアルタイムストリーミングには対応していません。ライブ字幕やリアルタイム翻訳には Deepgram または Google Cloud STT を検討してください。なお、Whisper モデルをセルフホストすればストリーミング化は可能ですが、インフラ運用の負担が発生します。
音声合成(TTS)の比較
| 項目 | ElevenLabs | Google Cloud TTS | OpenAI TTS |
|---|---|---|---|
| 日本語音声 | 対応(複数話者) | 対応(WaveNet / Neural2) | 対応(複数話者) |
| 音声クローン | 対応 | 非対応 | 非対応 |
| 感情・トーン調整 | 対応 | SSML で部分対応 | 限定的 |
| ストリーミング出力 | 対応 | 対応 | 対応 |
| カスタム音声作成 | 対応 | Custom Voice(エンタープライズ) | 非対応 |
| 音声数 | 数千以上 | 数百以上 | 数種類 |
2025 年以降、各社の日本語 TTS モデルは大幅に改善されており、ElevenLabs と Google Neural2 の日本語はイントネーションの不自然さがかなり軽減されています。ただし、敬語・方言・専門用語の読み上げ精度にはまだ差があるため、実際のユースケースでテストすることを強く推奨します。
料金構造
Deepgram は音声時間(秒・分)単位、OpenAI Whisper は音声時間単位、ElevenLabs は文字数単位、Google Cloud は音声時間または文字数単位です。同じ「1 分の処理」でも課金ロジックが違うため、自分の利用パターンで試算してください。
| 項目 | Deepgram | OpenAI Whisper | ElevenLabs | Google Cloud |
|---|---|---|---|---|
| 課金単位 | 音声秒数 | 音声分数 | 文字数 | 音声秒 or 文字数 |
| 無料枠 | 一定時間の無料クレジット | なし(従量課金) | 月間文字数制限あり | 月 60 分(STT)+ 一定文字数(TTS) |
| 桁感 | 1 時間あたり数ドル | 1 分あたり数セント | 1,000 文字あたり数セント〜 | 1 分あたり数セント |
| 従量課金の傾向 | 中 | 安 | 中〜高 | 中 |
レイテンシとストリーミング
日本語対応の実態
日本語の音声処理は英語に比べて各社で精度差が大きい分野です。
STT(音声認識):
- OpenAI Whisper — 日本語の認識精度はトップクラス。アクセントや方言にも比較的強い
- Google Cloud STT — V2 モデルで日本語精度が向上。医療・金融向けのカスタムモデルも構築可能
- Deepgram — 日本語モデルを提供しているが、英語モデルほどの精度差はまだある。ノイズ環境での認識精度を要検証
TTS(音声合成):
- ElevenLabs — 日本語対応の多言語モデルを提供。感情表現の自然さは英語に近づいている
- Google Cloud TTS — WaveNet / Neural2 の日本語音声は安定した品質。SSML で読み上げの細かい調整が可能
- OpenAI TTS — 日本語音声を提供しているが、話者バリエーションは少ない
すべての TTS サービスで、日本語特有のイントネーション(助詞のピッチ、複合語のアクセント)に不自然さが残るケースがあります。特に固有名詞、地名、専門用語は読み間違いが発生しやすく、本番導入前には必ず対象テキストで試聴テストを行ってください。
「ElevenLabs と Whisper の違い」を先に片づける
この 2 つを並べて調べる人が多い。ただ、この比較は階層がずれている。 先にそこを整理しないと、どちらを選んでも判断を誤る。
| Whisper | ElevenLabs | |
|---|---|---|
| 名前が指すもの | OpenAI が公開したモデルの名前 | 会社とプラットフォームの名前 |
| 知られている向き | 音声 → テキスト(STT) | テキスト → 音声(TTS) |
| 逆向きの提供 | OpenAI は TTS のモデルを別に持つ | Scribe で STT も提供している |
| 同じ土俵になる相手 | Scribe / Deepgram / Google STT | OpenAI TTS / Google TTS |
Whisper は 1 つのモデルを指しますが、ElevenLabs は複数の製品を持つ提供元の名前です。粒度が違うものを並べているので、そのまま比べても答えが出ません。比べるなら Whisper ↔ Scribe(どちらも音声認識)か、OpenAI の TTS ↔ ElevenLabs の TTS(どちらも音声合成)のように、向きと粒度を揃えます。
出自が逆なので、評価軸も逆になる
両社とも今は STT と TTS の両方を持っているが、強い方向は出自のままだ。 Whisper は音声認識の精度で評価されてきたモデルで、ElevenLabs は 声の自然さと感情表現で評価されてきた製品群になる。
ここを取り違えると、意味のない比較をしてしまう。
Whisper は書き起こすためのモデルなので、読み上げの品質という軸が存在しません。逆に、ElevenLabs を「文字起こしの精度」だけで判断すると、この製品が評価されている理由をまるごと外します。先に決めるのは製品ではなく、音声を文字にしたいのか、文字を音声にしたいのかです。そこが決まれば、比べる相手は自動的に絞られます。
向きが決まったあとの比べ方
やりたい処理の向きが決まったら、この記事の該当する比較表に戻ればよい。
- 音声を文字にしたい(STT) — 下の「音声認識(STT)の比較」を見る。 リアルタイム性が要るかどうかが最初の分岐で、ここで選択肢がはっきり減る
- 文字を音声にしたい(TTS) — 下の「音声合成(TTS)の比較」を見る。 日本語の自然さは実際に生成して聞き比べないと判断できない領域なので、 表よりも試聴を優先する
文字起こしと読み上げの両方を使う構成(音声で受けて音声で返す等)では、1 社にまとめると認証と請求が 1 つで済み、開発中の切り替えも速くなります。一方、方向ごとに最良のものを選ぶと品質は上がりますが、鍵の管理と障害時の切り分けが増えます。あとから統合し直すのは手間なので、作り始める前に決めておく方が安全です。